江戸時代初期の文人数寄者であった松花堂昭乗(しょうかどうしょうじょう)の庵で使っていた物入れにヒントを得て、吉兆の湯木貞一氏が創案したもの。
官休庵の木津宗詮(きづそうせん)宗匠は、私に「茶が好きになるように心がけなはれ。時間の許す限り、茶をたしなみなはれ。お茶と料理は紙一重の妙味がある。それがわかるようになりなはれ」としきりにアドヴァイスしてくださった方です。
昭和五年ごろ、京都と大阪の中間あたりに位置する八幡(やわた)で、木津宗匠が釜をかけていらっしゃいました。私もそこへお招きいただきました。
そこは、江戸時代初期の文人数寄者であった松花堂昭乗の庵で、金具つきの箱が五、六個重ねてあり、煙草入れや薬入れ、種入れなどの物入れとして使っているのを見つけました。ああ、これはお弁当に使える、と思い、そのころはまだそうした道具を注文できるころではなかったのでアイディアだけで帰ったのですが、のちにそれを模して作らせ、使い始めたところ、大評判になりました。本歌には四隅に金具がついており、中に絵が描いてありました(写真参照)が、それらをとり、蓋をかけるようにしたのは私のアイディアでした。
それが今の松花堂弁当で、私自身、こんなにもてはやされるとは思ってもみませんでした。大徳寺縁高ほどにはお茶の風情はありませんが、中の仕切りが味をまじらないようにしますから、出前などの点心用弁当箱としては重宝なものです。